経営者が英語で失敗すると会社が失うもの|商談・交渉・採用で起きる4つの損失と立て直し方
経営者が英語で失敗したとき、失われるのは本人の評価ではなく交渉条件と時間と人材です。商談・交渉・採用で起きる4つの損失と、通訳では埋まらない領域、エグゼクティブ英語の立て直し手順を解説します。

| 起きた場面 | 表面上の出来事 | 会社が実際に失うもの |
|---|---|---|
| 海外パートナーとの商談 | 条件の説明が伝わらず、話が先に進まなかった | 交渉の主導権と、次回以降の会話の相手 |
| 現地法人のマネジメント | 指示の意図がずれたまま実行された | 修正にかかった時間と、現場の信頼 |
| 海外人材の採用面談 | 会社の魅力を語りきれなかった | 採りたかった候補者そのもの |
英語で失敗したとき、多くの経営者はそれを自分の語学力の問題として片付けます。しかし実際に減っているのは、本人の評価だけではありません。商談の条件、意思決定の速さ、採用できる人の幅といった、会社の側の数字が動いています。
この記事では、経営者の英語がうまくいかなかったときに会社が何を失うのかを整理し、通訳を入れても残ってしまう部分と、そこを埋めるための練習の順番までをまとめます。エグゼクティブ層の英語は、日常英会話の延長ではありません。求められる場面が限られている分、対策も絞り込めます。
私自身、外資系で働いていたころに、この構造を身をもって知りました。業務そのものは、ちゃんとこなせていたと思います。ただ、英語をペラペラに話せる日本人の同僚は順調に昇進していったのに、自分は昇進できませんでした。技術の力だけでは越えられない壁があると、はっきり感じた瞬間でした。当時は自分の問題だと思っていましたが、経営側から見れば、話せる人にしか任せられない仕事が積み上がっていたということでもあります。
要約
- 経営者が英語で失敗したとき、減っているのは本人の評価だけではありません。商談の条件、意思決定の速さ、採用できる人の幅が動いています。
- 通訳を入れても埋まらない領域があります。自社の条件を、意図した強さで、遅れずに相手へ届けられるかどうかが基準です。
- 使う場面を3つに絞り、その場面で出てくる自社の言葉の発音を直し、断る・条件を出す・保留するの型を持ってください。
経営者が英語で失敗するときに起きている4つのこと
| 失敗の型 | 起きていること | 相手側の受け取り方 |
|---|---|---|
| 伝わらない | 発音や区切りが原因で単語が届いていない | 準備が足りない人だと判断される |
| 弱く伝わる | 意味は通じたが、断定と譲歩の強さがずれている | 決裁権のない担当者だと見なされる |
| 反応が遅れる | 聞き取りに時間がかかり、間が空く | 迷っている、あるいは隠していると読まれる |
| 沈黙する | 難しい話題になると相手に主導権を渡す | 実質的に条件を受け入れたと扱われる |
4つのうち、経営者にとって影響が大きいのは下の2つです。「伝わらない」は言い直せば回復できます。しかし「弱く伝わる」と「沈黙する」は、その場では失敗として認識されないまま進みます。会議が終わったあとに、相手の議事録では自社の主張が一段弱く記録されている、ということが起こります。
わかりやすい例を挙げます。英語では「B」と「V」の区別が大事です。日本語の「バ」と英語の「B」はどちらも両方の唇を閉じてはじく音ですが、「V」は下唇を上の前歯に軽く当てて出す音で、動きがまったく違います。日本人の「B」は、母音の長さが足りなかったり子音がはっきりしなかったりすると、「V」とまぎらわしく届きます。
窓口であれば10分の損で済みます。同じことが役員会や条件交渉の場で起きると、失われるのは10分ではありません。相手が「この人には確認しながら話す必要がある」と判断した瞬間から、会話の速度そのものが落ちます。
関連: 投資家との英語対話で外せない4つのポイント|経営者が数字を守り切るためのエグゼクティブ英語 で詳しく解説しています。
通訳を入れても埋まらない3つの領域
| 領域 | 通訳では代替しにくい理由 |
|---|---|
| 場の空気の読み取り | 相手の言いよどみや語調の変化は、訳された言葉には残りません |
| その場での条件変更 | 一往復ごとに間が入るため、押し引きのタイミングを逃します |
| 信頼関係づくり | 雑談や本音のやりとりは、間に人が入ると質が変わります |
通訳は有効な手段です。正確さが最優先される契約説明や、専門用語が密集する技術説明では、むしろ入れたほうが安全でしょう。ここで指摘したいのは、通訳が要らないということではありません。通訳を入れても、経営者本人が担うしかない部分が残るということです。
とくに交渉では、相手が一瞬ためらった直後にどう出るかで結果が変わります。その一瞬は訳している間に消えてしまいます。また、会食や商談後の立ち話といった、契約書に残らない場所で関係が決まることも珍しくありません。そこに通訳が同席し続けるわけにもいきません。
つまり経営者に必要なのは、あらゆる話題を流暢に語る力ではないのです。自社の事業について、限られた場面で、正確な強さで話せる状態を作ることが目標になります。
経営者の英語を立て直す4つの手順
| 手順 | やること | 進め方の目安 |
|---|---|---|
| 1. 場面を絞る | 実際に英語を使う場面を3つだけ書き出します | 最初の1週間 |
| 2. 音を直す | その場面で必ず出てくる自社用語の発音を確認します | 毎日10分 |
| 3. 型を持つ | 断る・条件を出す・保留する言い方を決めておきます | 場面ごとに3表現 |
| 4. 指摘を受ける | 実際に話して、ずれている箇所を一つずつ直します | 週1回の対面 |
手順1がいちばん省かれやすく、いちばん効きます。経営者が英語を使う場面は、実際には多くありません。取締役会での報告、海外パートナーとの条件交渉、現地社員への方針説明といったところに集中します。ここを特定せずに一般的な英会話から始めると、使わない語彙に時間を取られてしまいます。
手順2では、自社の事業を説明するときに毎回出てくる単語から手をつけてください。業界名、製品名、部署名は、英語話者にとって耳慣れない語であることが多く、発音が崩れると復元してもらえません。日本語の「あいうえお」の5母音に合わせて使い慣れた口は、舌の可動域が英語話者よりも狭くなっています。たとえば「TH」の音は、舌先を上下の歯で軽く挟んで息を吐く摩擦音です。こうした仕組みを頭で理解したうえで、意識して口を動かす練習を重ねると、通じ方が変わってきます。
手順3の「型」は、丸暗記の英会話フレーズとは別のものです。同じ「その条件は難しい」でも、英語には強さの段階がいくつもあります。どの段階の言い方を選ぶかで、相手の次の一手が変わります。自分の意図した強さで言えるように、あらかじめ手持ちを作っておきましょう。
手順4は独学でいちばん詰まるところです。自分の英語のどこがずれているかは、自分では聞こえません。AI発音ツールは基本的な音の出し方の確認には使えますが、実際の商談で通じやすくなるところまでは届きにくいのが実情です。オンラインの会話練習も、会話の流れを重視するため、発音が不正確でも文脈で理解されてしまいます。会話練習と発音矯正は、別種のスキルを身につける作業だと考えてください。専任の講師による対面での診断と修正を組み合わせることが、遠回りに見えていちばん早い道です。
関連: ボードミーティング英語のリアル|日本人役員が取締役会で発言権を失う4つの瞬間 で詳しく解説しています。
FAQ
Q: 経営者になってからでも発音は直りますか?
A: 直ります。発音は口の中の筋肉を正しく動かす練習でもあるため、年齢よりも、正しい動かし方を知っているかどうかと、続けているかどうかで差がつきやすい部分です。ただし完璧なネイティブ発音を目標にする必要はありません。自社の事業を説明するときに聞き返されない、という水準に絞れば、取り組む範囲はかなり小さくなります。
関連: 「決まったのに止まっている」を英語で説明する技術|賃上げ差止のニュースで学ぶ、保留・発効・係争中のビジネス英語 で詳しく解説しています。
Q: 英語ができる部下を同席させれば十分ではありませんか?
A: 報告や説明の場面であれば有効です。ただ、条件を詰める交渉の場では、相手は決裁できる人と話したいと考えています。実質的な判断を部下が訳している状況が続くと、相手側の窓口も担当者クラスに下がっていくことがあります。誰が話しているかは、相手にとって情報の一つです。
Q: 忙しくて毎日の学習時間が取れません。
A: 場面を絞れば、必要な量は思ったより多くありません。毎日10分を自社用語の発音確認にあて、週に1回まとまった時間で指摘を受ける、という形でも進みます。大切なのは総量よりも、実際に使う場面の言葉から手をつけることです。
Q: TOEICのスコアを上げれば解決しますか?
A: 読み書きの指標としては役に立ちますが、スコアと交渉の場での通じやすさは別物です。試験には、発音の明瞭さや、相手の語調に合わせて強さを調整する要素が含まれていません。スコアを目標にするより、実際の会議を録音して聞き直すほうが、経営者にとっては近道になります。
英語の失敗を、会社の損失にしないために
経営者の英語は、上手いか下手かで評価するものではありません。自社の条件を、意図した強さで、遅れずに相手へ届けられるかどうかが基準です。ここが崩れると、失われるのは面子ではなく、交渉の条件と時間と人材になります。
やることは決まっています。使う場面を3つに絞り、その場面で必ず出てくる自社の言葉の発音を直し、断る・条件を出す・保留するの型を持ち、定期的に指摘を受けてください。この4つを回すだけで、会議での立ち位置は変わってきます。
プロナビのエグゼクティブコースでは、経営者・役員の方が実際に使う場面から逆算して、発音の診断と交渉表現の組み立てをマンツーマンで進めています。まずは直近3か月で英語を使う予定の場面を書き出すところから、始めてみてください。
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