交渉英語で押し負ける本当の理由|立場・交換・保留の3つで変わる外資系の交渉術
英語の交渉で不利になるのは語彙不足ではなく、日本語の思考の順番を持ち込んでいるからです。立場を先に出す、譲歩を交換で示す、黙る理由を言葉にするという3つの型と、事前に決めておく数字を、ビジネス英語コーチングの視点で解説します。

英語の交渉で不利になるのは、語彙が足りないからではありません。日本語で交渉するときに使っている思考の順番を、そのまま英語に持ち込んでいることが原因です。
日本語の交渉は、関係を保ちながら少しずつ間合いを詰めます。相手の出方を見て、こちらの本音は最後まで出しません。この進め方は、英語の場では「立場が定まっていない」と読まれます。
ここでは、交渉の場面で英語話者が前提にしている思考の順番と、それを日本人が使えるようにするための型を整理します。
要約
- 英語の交渉で不利になるのは語彙が足りないからではありません。日本語の交渉で使う思考の順番を、そのまま持ち込んでいるからです。
- 日本語の交渉は関係を保ちながら間合いを詰め、本音は最後まで出しません。この進め方は英語の場では「立場が定まっていない」と読まれます。
- 英語話者が前提にしている順番は逆です。その順番と、日本人が使えるようにするための型を整理しました。
日本語と英語で、交渉の順番が逆です
| 日本語の進め方 | 英語の進め方 | |
|---|---|---|
| 最初に出すもの | 相手への配慮と背景 | 自分の立場と条件 |
| 本音を出す時期 | 終盤 | 序盤 |
| 譲歩の見せ方 | 察してもらう | 交換条件として明示する |
| 沈黙の意味 | 検討している | 反対している |
この4つのうち、実務でいちばん損をするのは3つ目です。日本の交渉では、こちらが譲った分を相手が汲み取って、どこかで返してくれることを期待します。英語の場では、明示しなかった譲歩は譲歩として数えられません。無償で差し出したものとして処理されます。
4つ目も見落とされます。考えるために黙ると、相手は「この条件は受け入れられないのだ」と解釈して、別の案を出し始めます。黙るときは、黙る理由を先に言う必要があります。
関連: 英語で意見が通らないのは順番のせい|立場・理由・裏づけの4段で組み立てるビジネス英語 で詳しく解説しています。
交渉の前に決めておく3つの数字
英語で交渉するとき、その場の判断で対応しようとすると必ず押されます。理由は単純で、母語でない言語では判断が1テンポ遅れるからです。
先に3つの数字を決めておいてください。
目標 — 通れば十分と言える条件です。最初に提示する数字ではありません。
下限 — これを下回るなら断る、という線です。金額とは限りません。納期、支払条件、責任範囲のこともあります。
代替案 — この交渉がまとまらなかった場合に、自社が取る次の手です。これが手元にあるかどうかで、交渉中の余裕がまったく変わります。
この3つが決まっていれば、英語で即答できなくても困りません。「持ち帰って確認します」と言えばよいのは、下限を割っていないかを自分が判断できる場合だけです。判断できない状態で持ち帰ると、次回また同じ場所で止まります。
使う表現は4種類で足ります
| 場面 | 表現 | 働き |
|---|---|---|
| 立場を出す | Our position is that ... | 冒頭で条件を明示する |
| 条件をつける | If you can ..., then we can ... | 譲歩を交換として示す |
| 保留する | Let me come back to you on that. | 沈黙を反対と読ませない |
| 線を引く | That's not something we can do. | 断る意思を曖昧にしない |
立場は最初に出します
Our position is that the delivery date stays as agreed. のように、条件を先に置きます。理由や背景は、そのあとで構いません。
日本語の感覚では唐突に聞こえますが、英語の交渉では立場を出さない側が主導権を失います。相手はこちらの前提が分からないまま話を進めるので、結局は相手の枠組みで議論することになります。
関連: 海外提携交渉の英語は「売る交渉」と別物|日本企業がアライアンスで押さえる4つの論点 で詳しく解説しています。
譲歩は必ず交換にします
これが最も重要な型です。If you can move the payment to 30 days, then we can hold the current price. のように、譲る条件と得る条件を1文に入れてください。
日本語では「では、こちらも考えます」で通じますが、英語では何を考えるのかが伝わりません。片方だけを口にすると、その譲歩は確定し、こちらが得るはずだったものは議題にすら上がりません。
関連: 「値上げ」を英語で伝える技術|食品2,311品目値上げのニュースで学ぶ raise・hike・pass on・absorb の使い分け で詳しく解説しています。
保留は理由を添えます
考える時間が要るときは、黙らずに Let me come back to you on that. と言ってください。I need to check with our team before I answer. でも構いません。
沈黙は英語の交渉で意味を持ってしまいます。日本語では「検討中」の合図になる間が、英語では拒否か、あるいは理解していない合図として受け取られます。
断るときは言い切ります
That's difficult. は、英語では「難しいができるかもしれない」と読まれます。断る意図なら That's not something we can do. と言い切ってください。
日本語の「難しいですね」が持つ拒否の含みは、英語には移りません。婉曲に断ったつもりが、相手には交渉継続の合図として届きます。
私はフィリピンに12年以上住んでいますが、契約や不動産の場面で、日本の感覚のまま曖昧に返答して話が進んでしまった経験があります。こちらでは何気ない会話でも合意とみなされることがあり、言い切らなかった側が不利を引き受けるという感覚が日本より強くあります。
実際の場面で崩れる3つの瞬間
相手が早口になったとき
条件を詰める場面では、相手も速くなります。ここで聞き取れないまま頷くと、後で覆せません。
Could you say that again, please? を、反射で出るまで練習しておいてください。聞き返すこと自体は交渉上の弱みになりません。分からないまま同意することのほうが、はるかに大きな損失です。
想定していない論点が出たとき
準備した3つの数字と関係のない条件を出されると、その場で判断しようとしてしまいます。
このときは That's a new point for us. Let me come back to you on that. と言って、いったん外してください。持ち帰るという選択肢を先に用意しておくと、その場の勢いに巻き込まれません。
金額の桁を言うとき
億や兆は、英語で桁が変わります。1億は 100 million、10億は 1 billion です。ここを間違えると、交渉の内容以前に信用を失います。
交渉に出る金額は、事前に英語で書き出しておいてください。その場で換算しようとすると、必ず詰まります。
FAQ
Q: 英語が完璧でないと交渉で不利になりますか?
A: 語彙や文法の完成度より、立場と条件が明確かどうかで決まります。短い文で言い切る人のほうが、長く複雑な文を話す人より信頼されます。むしろ流暢さを目指して文が長くなると、要点が埋もれて不利になります。
Q: 通訳を入れれば問題ありませんか?
A: 内容は伝わりますが、間合いと即応性は失われます。相手の表情の変化に合わせて条件を出し直すような動きは、通訳を挟むと難しくなります。重要な交渉では通訳を入れたうえで、こちらも要点は英語で言えるようにしておく形が現実的です。
Q: 相手が高圧的な場合はどうすればよいですか?
A: 声量と速度を上げて対抗する必要はありません。決めておいた下限を静かに繰り返してください。感情の温度を合わせないほうが、条件の話に戻せます。押し切られそうなときこそ、持ち帰る型が役に立ちます。
Q: 準備にどのくらい時間をかけるべきですか?
A: 3つの数字を決める作業に30分、それを英語で言えるようにする練習に30分が目安です。交渉全体の想定問答を作り込むより、この2つを固めるほうが効きます。想定は外れますが、下限は外れません。
Q: 発音は交渉の結果に影響しますか?
A: 影響します。数字と条件を聞き返されるたびに、こちらの主導権は削られます。特に thirteen と thirty、fifty と fifteen のような、強く読む位置だけで区別される組み合わせは要注意です。金額と期日は、事前に音まで確認しておいてください。
交渉の勝敗は、机に着く前に決まっています
英語の交渉で不利になるのは、語彙の量ではなく思考の順番です。立場を先に出し、譲歩を交換として示し、黙る理由を言葉にしてください。この3つで大半は変わります。
そして、目標・下限・代替案の3つを事前に決めておいてください。その場で判断しないで済む状態を作ることが、母語でない言語で交渉するときの最大の武器です。
次の交渉の前に、この3つを紙に書き、英語で1文ずつ言ってみてください。詰まった箇所が、そのまま準備すべき場所です。実際の場面で通じる発音まで含めて整えたい方は、プロナビの発音診断で現在地を確認するところから始められます。
参考・出典
この記事を書いた人
関連記事

英語で意見が通らないのは順番のせい|立場・理由・裏づけの4段で組み立てるビジネス英語
英語の会議で意見が聞き流されるのは、内容ではなく組み立ての順番が原因です。立場を先に言い切り、理由と裏づけを後ろに置く4段の型と、背景から入る・I thinkを繰り返すといった日本人特有の癖の直し方を、ビジネス英語コーチングの視点で解説します。
2026/8/11

英語会議で主導権を握る3つの技術|外資系で発言が通るビジネス英語コーチング
英語会議で発言できないのは英語力ではなく型の問題です。入る・戻す・締めるの3つの技術と実際の言い回し、明日から試せる練習をビジネス英語コーチングの視点で解説します。
2026/8/10

英語の相槌が会話を止める|日本語のあいづちを英語のリズムに合わせる4つの調整
日本語のあいづちの頻度で英語を聞いていると、相手には割り込みや同意と受け取られます。研究でも日本語話者の相槌は英語話者より明らかに多いと報告されています。頻度・音・位置・意味の4点をどう調整するかを、ビジネス英語の実践として解説します。
2026/8/7

英語で数字を読み上げる技術|億・兆・小数点・年度が伝わらない4つの原因
英語の会議で数字だけ聞き返される理由は、語彙ではなく読み上げの型にあります。桁の区切り、小数点、年度、パーセントの4か所で起きるずれを整理し、そのまま使える読み方と練習手順をビジネス英語コーチングの視点で解説します。
2026/8/5

海外提携交渉の英語は「売る交渉」と別物|日本企業がアライアンスで押さえる4つの論点
海外提携の交渉で使う英語は、商談の英語とは別の技術です。独占性、解消の条件、共同の意思決定、責任の切り分けという4つの論点ごとに、そのまま使える言い回しと準備の手順をビジネス英語コーチングの視点で解説します。
2026/8/3

BPO現場で本当に使われる英語表現|コールセンターの型がビジネス英語に効く理由
フィリピンのBPO現場で毎日使われている英語は、短く型が決まっています。待ってもらう・引き継ぐ・確認する・引き取るという4つの型と実際の言い方、用件の前にひと言添える習慣を、外資系のビジネス英語にそのまま使える形で解説します。
2026/7/30

