approvedはまだ義務ではない──規格・仕様の英語を読み分ける5つの状態
規格の英語では、approved、published、referenced、mandatory、phased outが別の状態を指します。フィリピンの鉄筋規格PNS 49:2026をめぐる報道を教材に、comply と conform の違いや transition period の実務上の意味まで、ビジネス英語の実践として解説します。

海外の取引先から「この製品は◯◯規格に適合していますか」と聞かれて、答えに詰まったことはありませんか。規格・仕様の英語は、法律の英語とも、日常のビジネス英語とも違う語彙を持っています。
違いは、この分野の言葉が「どの状態にあるか」を細かく区別することにあります。規格が作られた、承認された、参照されている、強制になったという段階が、それぞれ区別されています。日本語ではどれも「決まった」で済ませてしまいがちですが、英語では別の言葉が当てられ、実務上の意味もまったく違います。
今回は、フィリピンで進行中の鉄筋規格PNS 49:2026をめぐる報道を教材に、規格・仕様の英語を整理します。製造業でも建設業でも、海外と取引がある方には共通して使える語彙です。
規格の「状態」を表す5つの表現
| 表現 | 意味する状態 | 実務での帰結 |
|---|---|---|
| approved | 規格として承認された | 存在はするが、守る義務はまだない |
| published | 公開された | 誰でも参照できる状態 |
| referenced in | 別の規則から参照されている | 参照元の規則の効力に乗る |
| mandatory / made mandatory | 強制になった | 守らないと違反になる |
| phased out | 段階的に廃止された | 使用が認められなくなる |
この5つを混同すると、取引先との認識がずれます。とくに危ないのが最初の2つと4つ目の差です。
フィリピンの例で見ると、貿易産業省(DTI)は2026年5月にPhilippine National Standard(PNS)49:2026を approve しました。しかし報道は、the standard has yet to be made mandatory と書いています。承認済みだが、まだ強制にはなっていない、という状態です。
has yet to be made mandatory という形も押さえてください。have yet to は「まだ〜していない」で、今後そうなる見込みを含みます。not yet と近い意味ですが、have yet to のほうがやや硬く、公式な文書や報道で使われます。
そして made mandatory は受動態です。誰かが強制にする、という他動的な行為を示しています。規格そのものが自動的に効力を持つのではなく、別の行政行為が必要だ、という構造がこの一語に表れています。
関連: なぜ日本の英語教育では外資で通用しないのか──評価軸が「正しさ」から「動かすこと」へ変わる で詳しく解説しています。
日本人が誤読しやすい3つの場面
| 場面 | よくある誤読 | 実際の意味 |
|---|---|---|
| approved と聞いたとき | もう守らなければならない | 承認されただけで、強制力は別 |
| comply with と conform to | どちらも「準拠する」で同じ | 法令には comply、規格には conform が一般的 |
| transition period | 猶予をもらえる期間 | 旧基準がまだ合法である期間 |
1つ目が、approved の読み違いです。日本の感覚では、公的機関が承認した規格は事実上の基準として機能します。ところが英語圏の制度説明では、approve と make mandatory が明確に分かれていることが多く、その間に何か月も、ときには何年も空きます。取引先が「approved です」と言ったときに「では守られているはずだ」と受け取ると、話が食い違います。
2つ目が、comply と conform の使い分けです。厳密な線引きがあるわけではありませんが、実務では comply with が法令や要求事項に、conform to が規格や仕様に使われる傾向があります。The product conforms to PNS 49:2026. と The company complies with the regulation. のように使い分けると、相手の理解が速くなります。
3つ目が、transition period です。日本語では「移行期間」と訳され、新基準に合わせるための準備期間という印象になります。事実としてはそのとおりですが、裏側の意味も同じくらい重要です。その期間中は、旧基準の製品が合法的に流通し続けるということです。買う側から見れば、猶予ではなく「まだ古いものが来る期間」になります。
私はマニラに12年以上住んでいますが、日本の「間を読む」文化はフィリピンでは通用しないと実感しています。直接的で明確なコミュニケーションと、個々の立場を尊重する姿勢が効果的です。規格の話でも同じで、「approvedと聞いたから当然そうだろう」と察して進めると、後で認識のずれが出ます。mandatory なのかどうかを、その場で言葉にして確認するほうが早く終わります。
関連: なぜBPO出身講師がビジネス英語に強いのか?実務で鍛えられた英語力が日本人の学習に効く理由 で詳しく解説しています。
意見と期限をめぐる4つの語
| 表現 | 意味 | 押さえる点 |
|---|---|---|
| public consultation | 公開協議 | 案の段階で意見を聞く場 |
| public comment period | 意見提出期間 | 期限が示される |
| draft | 草案 | 内容が変わり得る |
| implementing order / memorandum circular | 実施のための命令・通達 | これが出て初めて動く |
規格が強制になるまでの過程には、決まった段取りがあります。英語の報道はこの段取りを正確な語で書き分けているので、どこまで進んだかが読み取れます。
DTIは7月23日に public consultation を実施しました。対象は draft memorandum circular です。示された案には、public comment period が9月21日まで、そして nine-month transition period が2027年4月30日まで、という内容が含まれていました。
ここで注目したいのが draft の1語です。draft が付いているかぎり、示された日付や条件は確定ではありません。実際、業界団体は期間の短縮を求めています。日本語の記事では「2027年4月30日から義務化」と断定的に書かれることがありますが、原文が draft であれば、まだ案です。
そして implementing order あるいは memorandum circular が、規格を動かす行政文書です。BusinessWorldの見出しは Order implementing new standards for earthquake-resistant steel due soon となっていました。due soon は「まもなく予定されている」で、まだ出ていないことを示します。
数量と能力を表す表現
| 表現 | 意味 | 注意点 |
|---|---|---|
| production capacity | 生産能力 | 実際の生産量ではない |
| market demand | 市場の需要 | 需要見込みであり実績とは限らない |
| metric ton | メトリックトン(1,000kg) | 米国のshort tonと異なる |
| grade | グレード・等級 | 製品の等級区分を指す |
規格の議論では、供給できるかどうかが必ず論点になります。フィリピンの例では、業界団体が production capacity is around eight million metric tons while market demand is at four million metric tons と主張しました。
production capacity は生産能力であり、実際に生産している量ではありません。設備上これだけ作れる、という上限を指します。日本語で「生産量」と訳すと意味が変わるので注意してください。
metric ton も落とし穴です。1メトリックトンは1,000キログラムですが、米国で使われる short ton は約907キログラムです。数量の交渉では、どちらのトンかを確認する必要があります。契約書では tonne と綴ってメトリックトンを明示することもあります。
grade は、製品の等級を指します。今回の文脈では seismic grade(耐震グレード)と non-seismic grade が対比されています。日本語の「グレード」は品質全般を漠然と指すことがありますが、規格の文脈では明確に定義された区分です。
今週から試せる3つの練習
| 練習 | やること | 1回あたり |
|---|---|---|
| 状態の特定 | 記事から規格の「いまの状態」を1語で答える | 5分 |
| draft探し | 見出しと本文で draft の有無を確認する | 3分 |
| 動詞の確認メール | 相手に conform か comply かを尋ねる1文を書く | 5分 |
1つ目は、状態の特定です。規格に関する英文記事を1本読み、その規格がいま approved なのか、mandatory なのか、まだ draft の段階なのかを1語で答えてください。答えが出ない場合は、記事がそこを書いていないか、自分が読み飛ばしています。どちらであっても、それが分かることに意味があります。
2つ目は、draft探しです。日本語の記事を読んだあと、元になった英文記事を開き、draft や proposed が付いているかを確認します。日本語の要約では、この1語が落ちていることがよくあります。落ちていた場合、その記事は確定していない内容を確定として伝えていることになります。
3つ目は、確認メールです。取引先に「この製品はどの規格に適合していますか」と尋ねる1文を書いてみてください。Could you confirm which standard the product conforms to, and whether that standard is currently mandatory? のように、規格名と強制力の有無を分けて聞くのが実務的です。1回の質問で両方が確認できます。
フィリピンで12年以上、いろいろなアクセントを体験してきました。マカティのビジネスの場では、フィリピン系・中華系・欧米系それぞれの英語の違いを毎日体験しています。そこで身についたのは、完璧な発音ではなく、相手に伝わる言い方でした。規格の確認も同じで、遠回しに聞くより、conform と mandatory という2語を直接使うほうが、相手も答えやすくなります。
FAQ
Q: approved と certified は、どう違いますか
approved は規格そのものが承認された状態を指し、certified は個々の製品や工場が第三者機関の審査を受けて認証された状態を指します。規格が approved であっても、あなたが買う製品が certified であるとは限りません。取引の場では、規格名(どの規格か)と認証の有無(誰がどう確認したか)を分けて確認してください。証明書の提出を求めるときは、test report(試験成績書)や certificate of conformity(適合証明書)という語が使えます。
Q: shall と must は、規格文書ではどう使い分けられますか
規格文書では、shall が要求事項を示し、should が推奨、may が許容を示すのが一般的な約束事です。ISOをはじめとする多くの規格体系がこの区別を採用しています。must は法令文で使われることがありますが、規格本文では shall のほうが標準的です。規格を読むときは、shall の付いた文だけを拾えば、守らなければならない項目が抽出できます。
Q: 日本語の「認証」を英語で言うとき、どの語を使えばよいですか
文脈によって変わります。第三者機関による製品や仕組みの認証は certification、行政による承認は approval、規格への適合は conformity です。「うちは認証を取っています」と英語で言う場合、何の認証かを添えないと相手に伝わりません。We are certified to ISO 9001. のように、規格名とセットにするのが確実です。
Q: 移行期間中の製品を買ってもよいのですか
法令上の可否と、自社の判断は別です。transition period 中は旧基準の製品が合法的に流通しますが、それを買うかどうかは購入者が決められます。英語で仕様を伝えるときは、The material shall conform to [規格名]. のように shall を使った一文を仕様書に入れておくと、契約上の要求事項になります。法令が求めていない品質は、こちらが書かないかぎり入ってきません。
Q: 規格の英語は、どこで練習すればよいですか
自社が実際に扱う製品の規格文書が、いちばん良い教材です。全文を読む必要はなく、目次と定義の部分、そして shall の付いた文だけを拾ってください。加えて、業界紙の英文記事を月に1本読む習慣をつけると、規格が今どの段階にあるかを追えるようになります。読む対象を自分の仕事の範囲に絞るほど、覚えた語彙が定着します。
まとめと次の一歩
規格・仕様の英語がつかみにくいのは、語彙が難しいからではありません。日本語では「決まった」で済ませる状態が、英語では approved、published、referenced、mandatory、phased out と細かく分かれているからです。
いちばん実務に効くのは、approved と mandatory の差です。フィリピンのPNS 49:2026のように、承認済みでも強制ではない規格は珍しくありません。この差を知らないまま「承認されているなら守られているはずだ」と考えると、調達の場面で認識がずれます。
段取りを表す語も押さえてください。public consultation、public comment period、draft、implementing order。draft が付いているかぎり、書かれている日付や条件は確定していません。日本語の要約ではこの1語が落ちやすいので、元記事で確認する習慣をつけてください。
次の一歩として、自社が扱う製品の規格について、英語で1文の質問を書いてみてください。Could you confirm which standard the product conforms to, and whether that standard is currently mandatory? この1文が書けて送れるようになると、規格まわりのやり取りが一往復で終わるようになります。
参考・出典
- BusinessWorld「Order implementing new standards for earthquake-resistant steel due soon」(2026年7月20日。approved / has yet to be made mandatory / draft MC / public consultation の用例): https://bworldonline.com/economy/2026/07/20/764706/order-implementing-new-standards-for-earthquake-resistant-steel-due-soon/
- Philstar「Faster transition to stricter steel rebar standards urged」(2026年7月27日。public comment period / transition period / production capacity / metric tons の用例): https://www.philstar.com/business/2026/07/27/2544866/faster-transition-stricter-steel-rebar-standards-urged
- DTI Bureau of Philippine Standards(フィリピン規格局・公式サイト): https://bps.dti.gov.ph/
この記事を書いた人
関連記事

期限の英語|within / by / not later than / prior to を公的文書で読み分ける
英語の期限はwithin・by・not later than・prior toで意味が違いますが、どれも「〜まで」と訳せるため読み違えます。実務でいちばん危ない「not later than 30 days prior to X」の読み方と、calendar daysとworking daysの差を整理しました。
2026/8/17

保険・給付の英語|entitled / eligible / avail / reimbursement の段階を公的文書で読む
entitled to、eligible for、avail of は日本語にするとどれも「受けられる」ですが、英文では別の段階を指しています。reimbursementは立替が前提、claimには期限がある。フィリピンPhilHealthの公表広報を教材に、制度英文の読み方を5つの手順で整理します。
2026/8/16

shall は未来ではなく義務──規制文書の英語を読み解く4つの型
海外の規制文書や契約書で、単語は分かるのに意味がつかめない原因は語彙ではありません。定義条項、shall と may の使い分け、placing on the market と putting into service の違い、without prejudice to の読み方を、EU AI Actの条文を教材にビジネス英語の実践として解説します。
2026/8/14

「相関はなかった」を誤読しない──OpenAIレポートで学ぶ統計のビジネス英語4表現
correlation、statistically significant、control for、per employee。海外レポートで頻出する統計のビジネス英語4表現を、OpenAIが2026年8月に公開した企業AI利用レポートの原文で読み解きます。誤読しやすい3場面と、今週から試せる音読・要約の練習法まで、ビジネス英語の実践としてまとめました。
2026/8/13

英文ニュースの wage order を「賃上げ」で止めない──effective・executory・compliance の使い分け
ビジネス英語で読み飛ばしやすい wage order・effective・executory・compliance の4語を、フィリピン労働雇用省の実際のニュースを題材に整理します。外資系で働く方が本社への報告や取引先への確認で使えるよう、例文と3つの練習まで落とし込みます。
2026/8/12

「値上げ」を英語で伝える技術|食品2,311品目値上げのニュースで学ぶ raise・hike・pass on・absorb の使い分け
2026年8月の食品値上げは2,311品目で前年の8割増。値上げラッシュのニュースを素材に、raise と hike の違い、コスト転嫁の pass on と据え置きの absorb、幅・時期・理由を明示する通知文の型を、ビジネス英語コーチングの視点で解説します。
2026/8/11

